ここでは一次関数 f を一般に f(x)=ax+b とおき,もう少し詳しく考察してみましょう.ただし b は実数とし,a は 1 でない正の実数とします.このとき f の n 回合成を表す xy 平面上の直線 y=fn(x) は,合成回数を増やすたびにどのように変化するでしょうか.
f によって値が変わらない実数,すなわち f(x)=x なる x を求めると
x=−a−1b
が得られる.したがって,xy 平面における直線 y=f(x) は点 (−a−1b,−a−1b) を通過する(以後この点を P と呼ぶ).このことが分かるよう,f(x) を以下の形に変形しよう.
f(x)=a(x+a−1b)−a−1b(1)
すると任意の正整数 n に対し,fn(x) は
fn(x)=an(x+a−1b)−a−1b(2)
と表されることが帰納法により簡単に示すことができる.
証明
式 (1) より n=1 のときは明らかに成り立つ.n=k で式 (2) が成り立つと仮定する.このとき
fk+1(x)=f(fk(x))=f(ak(x+a−1b)−a−1b)=a(ak(x+a−1b)−a−1b+a−1b)−a−1b=ak+1(x+a−1b)−a−1b
が得られるので,n=k+1 のときも式 (2) が成り立つ.
要するに f の合成回数 n を 1 から順に増やしていくと,直線 y=fn(x) は点 P を中心として回転するように傾きが a→a2→a3→⋯ と変化する.特に n1=n2 なる 2 つの正整数 n1,n2 に対し,2 直線 y=fn1(x),y=fn2(x) のそれぞれの傾き an1,an2 は異なっているため,これらは平行でなく共有点は点 P ただ一つである(ちなみに公式解説で f10(x),f401(x) が関数として相異なると述べているが,この議論の通りそもそも傾きが等しくない).このことから,方程式
fn1(x)=fn2(x)
の解が x=−a−1b のみであることもわかる.